歌う尼さんの慈悲に包まれる一冊

会えない大切な人をそばに感じたいと思う時や、何かにすがりつきたいほど悲しい時があります。そんな時読む人に慈悲の心で寄り添う一冊、歌う尼さんと親しまれている やなせななさんの絵本エッセイ集「歌う尼さんほっこり法話」をご紹介いたします。

ぬくもりのシンガーやなせなな

著者は、シンガーソングライターであり、奈良県にある浄土真宗の寺院で生まれ育った僧侶。

どんな悲しみも包み込む仏さまのぬくもりのような歌声と、命に対するあたたかなまなざしが織り込まれた歌詞に心を震わせるファンは多く、歌を待つ全国各地のファンのために法話コンサートを開催しています。

東北地方での活動も精力的です。東日本大震災の際には、支援歌「まけないタオル」で被災者を励まされました。「負けない」の願いを込め、短すぎて首には「巻けないタオル」を無料配布。歌とタオルで被災者を支援しました。

やなせさんはおしゃべりも楽しい方です。
おっとりとした奈良弁のお話は、上方落語といわれることもあるそうで、コンサートのトークコーナーは笑いで一杯になります。Date fmでオンエア中のラジオ番組「やなせなな はじまりの日」は10年以上続く人気番組です。

やなせさんが多くの人の心を震わせるのは、仏さまの教えがある僧侶だからだけではありません。やなせさんには子宮体癌の克服や、シンガーとして思うように活動できない時期があり、人としての悲しみや辛い経験があるからです。その経験からにじみ出るやさしさが人の心を強く打つのでしょう。

お酒と猫が大好き。保護猫ボランティアにも積極的に参加しています。

幸福感が満ちる法話絵本

やなせさんが全国各地で開催する法話コンサートを訪れたファンから「コンサートをそのまま持ち帰りたい」との声が多く寄せられました。その声に応えて出版されたのが「歌う尼さんほっこり法話」です。やなせななさんの心があたたまる法話とやさしい語り口のエッセイがぎっしりつまった一冊です。

やなせさんの世界観に更なる広がりを持たせているのが、イラストレーターのみよこみよこさんのイラストです。「描くことで誰かの幸せの役にたちたい」との想いで描かれる独創的なイラストが見る人を幸福感で満たします。

聴くだけで自然と涙があふれだす「家路」

歌う尼さんほっこり法話から「家路」をご紹介します。

「家路」
(一部抜粋)

あのひとが眠る町のはなし

聞かせてください

胸に深くしまい込んでも

聞こえるこだまは ふるさと

あなたがなくした道を

どうか 見つけてください

たとえ二度と 帰れなくても

あなたの いのちに ふるさと

たとえ 遠く 遠くなっても

呼びかけて 恋しい ふるさと

アルバム『夜が明けるよ』(2016年)より

仏教では、仏・菩薩(ぼさつ)が衆生(しゅじょう)をあわれみ、苦を除き、楽を与えようとする心を慈悲といいます。

帰ることがかなわないふるさとへの想いと、胸の奥に隠し込んだ悲しみや苦しみに耳を傾け、道をなくし涙の跡が残る頬をそっとなでるようなやさしさが描かれた家路。家路はありのままの悲しみを包み込み、聴く人をやすらぎへ導く慈悲の歌なのかもしれません。

https://yanasenana.net/discography/6606/
胸の奥がやすらぎを求める時は、やなせさんの歌声にゆだねてみてはいかがでしょうか。

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