
相続をするかどうかを判断する上で非常に重要な「相続放棄」と「限定承認」について、基本から丁寧に解説いたします。正しい知識を持つことで、後悔のない選択をいたしましょう。

佐藤 智春先生
みらいえ相続 相続専門税理士
専門分野:相続税・贈与税・所得税・事業承継・黒字解散

金(かね)つぐ
相続専門の佐藤税理士の相続への熱意と、困っている人々を助けたいという想いから現れた相続勇者。相続の様々な側面を分かりやすく説明し、人々の不安を和らげていく相続勇者。 資金運用の天才。

「相続って財産を受け取るだけじゃないということ?もし借金の方が多かったら、どうしたらいい?」

「その通りです。相続では財産だけでなく、借金や負債も引き継ぐ可能性があります。ただし、相続人には財産を引き継がない選択肢として『相続放棄』や、条件付きで相続する『限定承認』という方法があります。それぞれ詳しく説明していきますね。」 今回は、遺産分割協議の基本的な流れや分割方法の種類、注意点について詳しくお話ししますね。」
相続放棄とは?

「相続放棄って具体的にどういうこと?」

「相続放棄は、プラスの財産もマイナスの財産(借金)もすべて引き継がないと決めることです。これをすることで、借金の支払い義務を完全に免れることができます。」
(1) 相続放棄の概要
メリット:
- 借金や負債を一切引き継がないで済む。
- 他の相続人が相続する権利に影響を与えない。
デメリット:
- プラスの財産もすべて放棄するため、借金だけでなく預金や不動産も相続できなくなる。
(2) 相続放棄の条件
- 期限:
- 相続放棄は、相続が発生したことを知った日から「3か月以内」に手続きを行う必要があります。
- この期間を「熟慮期間」と呼びます。財産や負債の状況を把握し、相続するかどうかを決めるための時間です。
- 手続き:
- 家庭裁判所に「相続放棄申述書」を提出して手続きを進めます。
- 必要書類として、戸籍謄本や被相続人の死亡証明書などが求められます。
- 注意点:
- 相続放棄をすると、その人は最初から相続人ではなかったとみなされます。
- 他の相続人がその分の負債や財産を引き継ぐことになります。

「つまり、借金を引き継ぎたくないときは、早めに判断する必要があるのか。」

「そうです。3か月を過ぎてしまうと、自動的に相続を承認したとみなされる可能性があるので、注意してください。」
限定承認とは?

「限定承認って、相続放棄とはどう違う?」

「限定承認は、相続した財産の範囲内でのみ負債を引き継ぐ方法です。財産を超える負債がある場合でも、それ以上の支払い義務を負うことはありません。」
(1) 限定承認の概要
メリット:
- 財産を相続しながら、借金が多い場合も相続財産の範囲内でのみ負債を支払えばよい。
- プラスの財産が負債を上回っている場合、その差額を相続できる。
デメリット:
- 他の相続人全員が同意しないと手続きできない。
- 手続きが複雑で、裁判所に詳細な財産調査や書類提出が必要。
(2) 限定承認の条件
- 期限:
- 相続放棄と同じく、「相続開始を知った日から3か月以内」に手続きを行う必要があります。
- 手続き:
- 家庭裁判所に「限定承認申述書」を提出します。
- 財産と負債の詳細な目録を作成して、裁判所に報告します。
- 注意点:
- 限定承認を選択すると、すべての財産を一旦売却して、負債を清算する必要があります。
- この過程で弁護士や税理士などの専門家の協力が必要になるケースもあります。

「限定承認だと、プラスの財産があればそれを受け取れる可能性があるのか。でも、手続きが少し難しそう。」

「はい。限定承認は便利な制度ですが、手続きの煩雑さがネックです。ケースによっては専門家に相談した方が良いでしょう。」
相続放棄と限定承認の違い
項目 | 相続放棄 | 限定承認 |
内容 | 財産も負債もすべて放棄する | 財産の範囲内で負債を相続する |
メリット | 負債を完全に免れる | 財産がプラスの場合、その差額を相続できる |
デメリット | 財産も一切相続できない | 他の相続人全員の同意が必要で手続きが複雑 |
手続きに必要な同意 | 不要(個人単位で手続き可能) | 他の相続人全員の同意が必要 |
期限 | 相続を知った日から3か月以内 | 相続を知った日から3か月以内 |

「こうして比較すると、相続放棄はシンプルだけど、限定承認は状況に応じて柔軟に対応できる制度なのか。」

「そうですね。それぞれの特徴をよく理解した上で、自分や家族にとって最適な選択をすることが大切です。」
選択に迷った場合はどうする?

「相続放棄や限定承認を選ぶか迷ったときは、どうしたらいい?」

「まずは、被相続人の財産状況をしっかり把握することが大切です。そして、以下の手順を参考にしてください。」
(1) 財産調査を行う
- 被相続人が持っていた財産や負債をリストアップします。
- 例:不動産、預貯金、株式、保険、借金、ローンなど
- プラスの財産とマイナスの財産を比較して、どちらが多いかを確認します。
(2) 専門家に相談する
- 税理士や弁護士に相談することで、相続に関する適切なアドバイスを受けられます。
- 特に限定承認を選ぶ場合は、手続きが複雑なため専門家のサポートが有効です。
(3) 期限内に判断する
- 3か月の熟慮期間内に手続きを完了しないと、単純承認(全ての財産と負債を引き継ぐ)が適用されます。

「期限内に調査をしっかり行って、迷ったときは専門家に相談するのが大切なのか。」

「その通りです。相続の判断は人生に大きな影響を与えるので、慎重に進めていきましょう。」
まとめ
- 相続放棄:プラスの財産も負債もすべて引き継がない選択。手続きは簡単だが財産を相続できない。
- 限定承認:財産の範囲内で負債を相続する選択。財産がプラスの場合は差額を受け取れるが、手続きが複雑。
- 注意点:どちらも「相続開始を知った日から3か月以内」に家庭裁判所で手続きが必要。

「相続にはいろんな選択肢があるんだ。早めに状況を整理しておくことが大切!」

「はい、迷ったときこそ落ち着いて判断し、必要であれば専門家に相談するのが安心です。」
事情によっては、財産を引き継がないという選択肢もあります。但し、診断を誤ると取り返しがつきません。
まずは専門家にアドバイスをもらいましょう。
