
「限定承認」と聞くと、とても便利な制度のように感じますが、実はメリットとリスクがせめぎ合う複雑な制度だということをご存知でしょうか? 今回はリアルな舞台裏の解説です。

佐藤 智春先生
みらいえ相続 相続専門税理士
専門分野:相続税・贈与税・所得税・事業承継・黒字解散

土地つぐ(とちつぐ)
「大切な土地を、確かな未来へ。」 相続された土地を守り、次世代へ繋ぐために現れた勇者。大きな包容力で相談者の心に寄り添い、土地にまつわる不安を解消してくれる、不動産相続の心強い味方。

「佐藤先生。親が借金を残して亡くなった場合、普通は「相続放棄」を考えますが、最近「限定承認」という言葉も耳にします。これって、どういう仕組みなんですか?」

「限定承認とは、「相続したプラスの財産の範囲内だけで、亡くなった人の借金を返します」という条件付きで相続を認める制度です。もし借金が予想より多くても、引き継いだ財産(例えば自宅など)以上に自腹を切る必要はない、という「いいとこ取り」ができる仕組みですよ。
ただ、実際の利用状況を見ると、令和6年で相続放棄が約31万件もあるのに対し、限定承認はわずか690件しかありません。これほど便利なはずの制度なのに、1%にも満たないのが現実なんです。」

「31万対690……。それだけ聞くと、何か致命的な裏があるんじゃないかと勘繰ってしまいます。この差はどこにあるのですか?」
「相続放棄」と「限定承認」の決定的な違い


「一言で言えば「相続人が残るか、消えるか」です。」
- 限定承認:相続人が「今の持ち主」として残ります。だから、銀行に対して「無理やり競売にかけるより、親戚の○○さんにこの金額で買ってもらう方がスムーズですよね?」といった相談ができるんです。
- 相続放棄:初めから相続人とならなかったものとみなされます。相続人がいなくなるので、家は裁判所が決めたルールで機械的に「競売(オークション)」にかけられ、他人の手に渡ってしまいます。

「なるほど。放棄してしまうとそこで終了だけど、限定承認なら「家の鍵」を持ったまま、銀行と話し合いができるわけですね。これなら、親戚に協力してもらって実家を買い戻すなど、家を残すための粘り強い交渉ができますね。」
「売っていない」のに課税される落とし穴

「自分のペースで交渉できるなら限定承認が良さそうですが、なぜ専門家はあまり勧めないのですか?」

「実は「税金」が非常に特殊だからです。限定承認をすると、税務上は相続の瞬間に「亡くなった人が、その時の時価で財産を売った」とみなされます(みなし譲渡所得)。

「売っていないのに、税金がかかるのか‥。」

「そうです。例えば、親が昔2,000万円で買った自宅が今6,000万円の価値があるなら、その差額4,000万円に対して譲渡税が課税されます。通常の相続なら家を売るまで税金はかかりませんが、限定承認を選んだ瞬間に課税が確定してしまうんです。しかも、この申告期限は「死亡から4ヶ月以内」と非常に短いんですよ。」
限定承認を検討すべきケースとは?

「リスクは分かりましたが、それでも限定承認を選んだ方がいいのは、具体的にどんなケースなんですか?」

「主に、この2つの「困った」を解決したい時ですね。」
①「借金があるかもしれないけれど、家は手放したくない」時
親に借金がありそうだけど、正確な額がわからない。もし、うっかり普通に相続して、後からとんでもない額の借金が出てきたら人生が終わってしまう……。でも、相続放棄をしたら家からすぐ出ていかないといけない」という状況です。

「なるほど。とりあえず限定承認をしておけば、「もし後から借金が見つかっても、家を売ったお金の範囲内でしか返しません」という強力な「保険」をかけた状態で、家を守るための作戦が練られるわけか。」

②「借金まみれだけど、親戚に家を買い取ってもらって住み続けたい」時
借金が家の価値よりずっと多い場合、普通なら銀行に家を取り上げられて、オークション(競売)で知らない人に売られてしまいます。

「それを防げるんですか?」

「はい。限定承認をすれば、任意売却で交渉が可能となります。銀行に対して、「無理に競売にかけるよりも、こちらの親族にこの価格で買い取らせる形にしませんか?その方が、銀行さんも確実に、かつ早く資金を回収できますよ」と提案ができるんです。」

「「勝手に売られる」のを待つんじゃなくて、こちらから「より確実な回収プラン」を提示して、家を買い戻すチャンスを作れる。これが家を守るための手段なんですね。」
まとめと補足
限定承認はリスクを理解した上での「高度な戦略」です。
- 限定承認の定義:相続した財産の範囲内で借金を返済し、財産を超える借金は支払わなくて良い制度。
- 相続放棄との違い:相続放棄は「相続人なし」となり財産を手放すが、限定承認は「相続人あり」として自ら財産処分(交渉)に関与できる。
- 家を守る交渉:相続人が「持ち主」として残るため、銀行と話し合って親族に買い取ってもらうなど、柔軟な解決を目指せる。
- みなし譲渡課税:実際に売却していなくても、相続時の時価で資産の譲渡があったものとみなされ、亡くなった方に対して譲渡所得税が課税される。そのため、相続開始から4か月以内に納税資金を確保する必要がある。
- 借金が残っても返済不要:相続した財産をすべて返済に充てても、なお借金が残ってしまう場合、その残りの借金について相続人が支払い義務を負うことはありません。これにより、相続人が借金を背負い続けるリスクを回避できます。また、状況によっては「みなし譲渡課税」による税負担も消滅(または免除)される場合があります。

「借金があっても『家だけは守れるかも』という希望。でも、その代償が複雑な手続きと、売ってないのにかかる税金……。メリットとリスクを秤にかける、まさにプロの判断が必要な制度なんですね。」

「その通りです。法律と税務の複雑なパズルを解くような制度ですが、正しく使えば強力な武器になります。一人で悩まず、まずは私たちと一緒に数字を整理することから始めましょう。」
限定承認は「相続人全員」で行う必要があり、期限や税務判断が非常にタイトです。検討される方は、お早めにみらいえ相続へご相談ください。次回も相続について学びます。お楽しみに!
「限定承認」を検討したいのであれば、まずは専門家に相談するのが安全です。判断するまでの期間も短く、潜んでいるリスクがあるため、それらを見極めてもらいましょう。早めの行動が大事ですよ。
