贈与と相続の違い

財産を受け渡す方法として贈与と相続どちらを選択するかにより、全く違う未来が待ち受けているかもしれませんよ。それぞれのメリット・デメリットを理解し、将来に備えましょう。

佐藤 智春先生
みらいえ相続 相続専門税理士
専門分野:相続税・贈与税・所得税・事業承継・黒字解散

金(かね)つぐ
資金運用の天才。相続専門の佐藤税理士の相続への熱意と、困っている人々を助けたいという想いから現れた相続勇者。相続の様々な側面を分かりやすく説明し、人々の不安を和らげていく相続勇者。

「『贈与』と『相続』って、何が違う?」

「良い質問ですね。贈与と相続はどちらも財産を受け渡す方法ですが、タイミングや税金の仕組みが大きく異なります。今回は、贈与と相続の違い、そして最近注目されている“相続時精算課税制度”についても解説します。」

贈与と相続の基本的な違い

「まずは、贈与と相続の基本的な違いから教えて。」

「はい。財産を“いつ”渡すかが大きな違いです。税金の仕組みも異なります。」

贈与相続
いつ生前に財産を渡すとき(亡くなる前)亡くなった後に財産を引き継ぐとき

「贈与は生きてるうちに、相続は亡くなった後に。なるほど!」

贈与税と相続税の違い

(1) 贈与税

贈与税は、生前に財産をもらった人に課される税金です。主に「暦年贈与」と「相続時精算課税制度」の2種類があります。

A. 暦年贈与

  • 非課税枠:毎年110万円まで非課税(申告不要)。
  • 税率:110万円超部分に累進課税(10~55%)。
  • 生前贈与加算:被相続人の死亡前3~7年以内の贈与は相続財産に加算。110万円以下(申告不要)でも加算対象。
  • 相続税計算時には、すでに支払った贈与税分は相続税から控除されるため、二重課税にはなりません。
  • 向いている人:長期でコツコツ財産を移転したい人。
  • 税率(基礎控除後の金額に対して累進課税):
贈与額(基礎控除後)税率控除額
〜200万円10%0円
〜400万円15%10万円
〜600万円20%30万円
〜1,000万円30%90万円
〜1,500万円40%190万円
〜3,000万円45%265万円
〜4,500万円50%415万円
4,500万円超55%640万円

B. 相続時精算課税制度

  • 対象関係:60歳以上の父母・祖父母から、18歳以上の子・孫への贈与。
  • 非課税枠:通算2,500万円まで非課税。
  • 令和6年以降は、年間110万円までの贈与も非課税・申告不要に(併用可)。
  • 税率:2,500万円を超える部分は一律20%。
  • 相続時の扱い:贈与分は非課税分を除いた相続財産に加算して精算。贈与時に支払った贈与税は相続税から控除されるため、二重課税になりません。
  • 向いている人:住宅取得・事業承継など、早期にまとまった資産を移したい人。
  • 注意点:相続時精算課税選択届出書の提出が必要。一度選択すると暦年贈与には戻せません。

(2) 相続税

  • 相続税の基礎控除
    • 相続税には「3,000万円+600万円×法定相続人の人数」の基礎控除が適用されます。
    • 例:法定相続人が3人の場合、基礎控除額は4,800万円。
    • 遺産総額が基礎控除以下の場合、相続税はかかりません。
  • 税率
    • 相続税も贈与税と同様に累進課税です。ただし、基礎控除が大きいため、高額な遺産でない限り相続税がかかるケースは少ないです。
    • 税率表:
課税遺産額税率控除額
〜1,000万円10%0円
〜3,000万円15%50万円
〜5,000万円20%200万円
〜1億円30%700万円
〜2億円40%1,700万円
〜3億円45%2,700万円
〜6億円50%4,200万円
6億円超55%7,200万円


「贈与税も相続税も「財産をもらった人」に対して課税される税金です。そして、「自主的に申告する」制度ですので、納税通知書が届くわけではないので、納税対象となるのかの判断が大事になりますね。」

「つまり、“気づかないうちに申告漏れ”になってしまうこともあるんだ!きちんと理解しておかないと大変なことになる場合もあるな…。」

贈与と相続、それぞれのメリット・デメリット

項目暦年贈与相続時精算課税制度相続
非課税枠毎年110万円通算2,500万円+毎年110万円(令和6年以降)3,000万円+600万円×法定相続人
課税タイミング生前生前(相続時に精算)死亡時
税率超過分は累進課税(10〜55%)2,500万円超は一律20%累進課税(10〜55%)
相続時の扱い3〜7年以内の贈与は加算(110万円以下でも)贈与分を全額相続財産に加算・贈与税は相続税で控除基礎控除・特例あり
メリット・毎年コツコツ贈与で節税可
・申告不要枠あり
・早期に多額を移せる
・評価額固定で値上がり資産に有利
・贈与税は相続税で控除
・控除・特例が豊富
・実際の課税対象は限定的
デメリット・7年以内の贈与は加算対象
・管理・証拠保全が必要
・暦年贈与に戻せない
・将来の相続時に加算精算が必要
・分割協議などで時間がかかることも
向いている人計画的にコツコツ財産を渡したい人住宅資金や事業承継など早期移転したい人節税特例を活用して円滑に承継したい人

「こうして比べてみると、制度ごとに特徴がハッキリしてる。自分や家族の状況に合った方法を選ぶことが大事!」

「そうですね、特に令和6年改正で相続時精算課税制度にも年間110万円非課税が追加され、選択肢が広がりました。目的と期間に応じて制度を使い分けることが大切です。」

贈与と相続を組み合わせた節税対策

(1) 暦年贈与

  • 毎年110万円以下の贈与を活用し、長期的に財産を移転する。
     例:110万円×10年=1,100万円を非課税で移転可能(申告不要)。
  • 生前贈与加算(3年→最大7年)に注意。被相続人が亡くなる前7年以内の贈与は、金額に関係なく相続財産に加算。
  • すでに支払った贈与税は、相続税から控除されるため二重課税にはならない。

(2) 相続時精算課税制度

  • 非課税枠:2,500万円+年間110万円(令和6年以降)。
  • 大きな資産(不動産・株式など)を早期に移す場合に有効。
  • 贈与時の評価額が固定されるため、値上がりが見込まれる資産ほど効果的。
  • 贈与税は相続時に精算し、支払済分は相続税から控除されるため、実質的に一度の課税。
  • 注意点:一度選択すると暦年贈与に戻れないため、長期の資産設計が重要。

(3) 相続との組み合わせによる節税例

  • 例えば、生前に母からの贈与は「暦年贈与」で小額をコツコツ渡し、同時に父からの贈与は「相続時精算課税制度」で住宅資金などをまとめて贈与する。贈与者を分けることがポイント。
  • 相続発生時には、配偶者控除や小規模宅地等の特例を併用し、トータルの税負担を最小化。しかし、二次相続も想定して進めないと、結果として家族全体の税負担が増加するという逆転現象が起こりえます。一次・二次相続の税額を総合的にシミュレーションし、最適な遺産分割のバランスを見極めることが極めて重要。

「きちんと考えないと困ることになりそう!」

「その通りです。長期的な視点で計画を立てることが、大事です。そのためにも、相続税・贈与税に強い専門家に相談することをお勧めします。」

まとめ

  • 贈与と相続の違い:贈与は生前に財産を渡し、相続は亡くなった後に承継する制度。
  • 暦年贈与:毎年110万円まで非課税。少しずつ贈与して長期的な節税が可能。
  • 相続時精算課税制度:通算2,500万円+毎年110万円まで非課税(令和6年以降)。大きな資産を早めに移したいときに有効。
  • 相続税:3,000万円+600万円×法定相続人の基礎控除があり、配偶者控除や小規模宅地等の特例など節税策が豊富。
  • 生前に贈与することで相続税が減らせることもあるが、長期的な視点で計画的に実行することで、安心と節税の両立が可能。

「制度を知ることで、家族の未来に備えられる!」

「ええ。早めに計画を立てることが、安心の第一歩です。」

次回も相続について学びます。お楽しみに!

贈与は節税対策に有効ですが、使い方を間違えると損をするかもしれません。きちんと専門家に相談してから活用しましょう。

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