おひとり様相続 〜身寄りがない人の相続はどうなる?

おひとり様問題は未婚者に限った事ではありません。将来、家族が認知症や障害などの理由で頼れなくなった場合、誰でも当事者になる可能性があるのです。 リスクを理解し、正しい対策の知識を備えましょう。

佐藤 智春先生
みらいえ相続 相続専門税理士
専門分野:相続税・贈与税・所得税・事業承継・黒字解散

恩(お)つぐ
相続専門の佐藤税理士の相続への熱意と、困っている人々を助けたいという想いから現れた相続勇者。相続の様々な側面を分かりやすく説明し、人々の不安を和らげていく。恩つぐは相手の気持ちを理解し、細やかな配慮ができる優しい性格の持ち主です。家族や大切な人への「恩」を次世代に受け継ぐという想いが強い。

「最近、“おひとり様”の相続が増えていると聞きました。家族がいないと、財産って誰に引き継がれるのですか?」

「はい、非常に大切なテーマです。配偶者・子どもがいない方が亡くなった場合、相続は簡単には進みませんが、法律に基づいて進みます。ただし、準備を怠ると“望まぬ相手”に財産が移ったり、最悪“国のもの”になったりするケースもあるんです。今日は“おひとり様相続”の落とし穴と備え方を一緒に見ていきましょう。」

おひとり様に該当するのは?

「“おひとり様相続”って、具体的にどんな人が対象なんですか?」

「次のような方は“おひとり様”にあたります。」
・独身で子どももいない
・結婚歴はあるが配偶者に先立たれ、子もいない
・親・兄弟姉妹がすでに他界、または連絡を取っていない
・いるにはいるが、認知症・高齢・障害があるなどで頼れない

「大切なのは、“疎遠かどうか”ではなく、法律上の相続権があるかどうか。たとえ何十年も会っていなくても、兄弟姉妹や甥・姪が法定相続人になることがあるんです。」

相続人がいないと財産はどうなる?

「じゃあ、もし本当に誰も相続人がいなかったら、財産はどうなってしまうのですか?」

「はい、相続人がいなければ最終的には“国の財産”になります。でもその前に段階があります。」

【相続人がいない場合の流れ】

  1. 遺言書がある場合
     → 指定された人や団体に渡せる
  2. 遺言書がない場合:自動的には進みません。各種手続きが必要!
     ・家庭裁判所で相続財産管理人を選任
     ・債務や税金を清算
     ・残った財産は国庫へ帰属(国のものに)

“おひとり様”だからこそ、遺言が命綱

「それは…もったいないですね。対策はあるんですか?」

「あります。おひとり様にとって一番重要なのは“遺言書”です。」

【遺言書でできること】

  • 信頼できる人・団体に財産を渡せる
  • 死後のトラブルを防げる(例:お墓や葬儀、家の片付けなど)

ワンポイント:公正証書遺言をおすすめします
自筆だと形式不備で無効になるリスクが高く、相続手続きでも使いづらい場面があります。公証役場で作る公正証書遺言なら、法的に確実でトラブル防止に最適です。

【さらに重要な2つのポイント】

1.言執行者を指定する

「遺言を書いただけ」で終わりではありません。
実際にその内容どおりに手続きをしてくれる“遺言執行者”を言書の中で指名しておくことがとても大切です。
特におひとり様の場合、手続きをお願いできる家族がいないことも多いため、信頼できる専門家(税理士や行政書士、弁護士)を執行者にしておくと、相続手続きが確実かつ円滑に行われます。

2.死後事務委任契約もセットで考える

相続手続きだけでなく、「葬儀」「火葬」「納骨」「住居の片づけ」「公共料金の解約」など、“死後の生活まわりの手続き”を誰かに任せておく契約が「死後事務委任契約」です。

遺言ではカバーできない“生活の延長線”を整えておくことが、おひとり様の最期の安心につながります。

相続税専門税理士が伝えたい“盲点”

「ここからは税理士ならではの視点でお話します。」

(1) 相続税は“疎遠でも”かかる
疎遠な兄弟や甥姪が相続すると、相続税の税率は高く、控除は少ないです。

  • 子や配偶者:基礎控除+控除額大、税率低め
  • 兄弟姉妹・甥姪:控除額ほぼゼロ、税率高い(さらに2割加算)

つまり、税金を多く払う相手に、意図せず財産が渡る可能性も。

(2) 寄付でも相続税がかかることが
たとえば、遺言で財産をNPO法人へ寄付しても、その団体が相続税非課税の法人でなければ課税対象になります。寄付先の選定にも専門家の確認が必要です。

認知症になった場合のリスクと備え

「でも…生きている間に認知症になったら、どうしたらいいですか?」

「実は、それも非常に大きな問題です。認知症になると、預金の引き出しや不動産の売却、相続税対策など、あらゆる財産の手続きがストップします。これを“資産凍結”と呼びます。」

【認知症になった場合に起こること】

  • 銀行が本人の預金口座を凍結
  • 不動産の売却・贈与ができない
  • 生前贈与・名義変更などの節税対策が不可能に
  • 相続税の準備が間に合わず、相続人に大きな負担が…

「こうしたリスクに備えるために、元気なうちから“任意後見契約”や“家族信託”を結んでおくことが有効です。」

1.任意後見契約
将来、判断力が低下したときに備え、信頼できる人にあらかじめ“財産管理”を任せる制度。家庭裁判所の監督のもとで行われるため安心です。

2.家族信託
不動産や預金を“信託”という形であらかじめ信頼できる人に託し、将来の財産管理や使い道を決めておけます。認知症になっても“使えるお金”として活かせるのが強みです。

こんなケースも要注意!

  • 「財産が少ないから遺言なんて…」は危険!
     → 預金だけでもトラブルになることがあります。
  • エンディングノートは法的効力なし
     → 遺言とセットで活用を。ノートだけでは実現できないことも。

まとめ

  • 「家族がいないから関係ない」は間違い。ひとりだからこそ備えが必要
  • 遺言書、公正証書、死後事務委任、信託などで安心を形に
  • 相続税や寄付先の選定にも専門的な判断が必要

「“ひとり”って不安に感じる人も多いけど、準備をすれば安心に変えられるんですね。」

「まさにそうです。後悔しないために“誰に、どう残すか”を今から考えはじめましょう。当社でも“おひとり様支援”を行っています。まずは元気なうちに、自分にはどんな準備が必要なのか、お早めにご相談ください。」

事情があって誰にも頼れない、そんな方でも大丈夫!今は気軽に専門家へ相談できる時代です。早めにアドバイスをもらい不安を解消しましょう。

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